復帰予定だった育休が、終盤に差しかかって「このまま辞めたい」に変わってしまうことがあります。気持ちは固まりつつあっても、給付金をもらった負い目や会社への申し訳なさが先に立って、なかなか口に出せないものです。育休後に退職を選ぶ女性は約7%(厚生労働省 令和5年度雇用均等基本調査)。この記事では、退職を考える理由・直面する現実・3つの選択肢を整理して、罪悪感と手続きの両方に向き合えるように構成しました。
育休後に退職を考える、5つの理由
「復帰するつもりだったのに、気持ちが追いつかなくなった」――そう感じる人は少なくありません。育休が始まる前と終わる頃では、子どもの状態も家庭の状況も変わっています。ここでは、育休後の退職を考える人が直面しがちな5つの理由を整理します。
理由1|保育園に子どもが馴染めない・体質が合わない
入園後の慣らし保育で熱を繰り返したり、預けるたびに泣き止まなかったりすると、復帰の現実味がどんどん遠のいていくものです。仕事中の呼び出しが続く生活を想像して、「これは無理かもしれない」と感じる瞬間があります。
子どもの体質的な問題は本人にも家庭にも責任のないことなのに、「自分の選択が悪かったのか」と自分を責めてしまう人は多いものです。ただ、子どもの状態に合わせて働き方を見直すのは親として自然な判断であり、そこに後ろめたさを乗せる必要はないはずです。
理由2|時短勤務でも家事育児との両立が物理的に厳しい
時短勤務制度があるから大丈夫、と頭で思っていても、いざ復帰してみると朝の準備・送迎・夕方のお迎え・夕食・寝かしつけが連鎖して、自分の時間がほとんどなくなる現実があります。在宅勤務の場合も、子どもがそばにいる日は集中できる時間が極端に短くなるものです。
パートナーと家事育児を分担しても、保育園の連絡対応や急な発熱の呼び出しは片方に偏りがちで、その片方が仕事を抜けにくい立場だと、両立そのものが破綻する場面が出てきます。物理的にこなせる量を超えていると感じたとき、退職という選択肢が浮かぶのは自然な流れです。
理由3|パートナーの転勤・実家サポートの変化で生活が回らない
育休に入ったときには想定していなかった環境変化が、退職を後押しすることがあります。パートナーの急な転勤・実家の親の体調変化・近隣サポートの喪失――これらが重なると、復帰前提だった生活設計そのものが組み直しを迫られます。
特に頼りにしていた送迎や病児対応の手が消えると、保育園の延長保育やシッター費用が跳ね上がり、収入と支出のバランスも崩れていきます。「働き続けるためのコスト」が予想を超えたとき、退職してリセットする方が現実的だと判断する人は少なくありません。
理由4|復帰先の部署・上司・体制が育休前と変わっている
1年前後の育休の間に、会社の組織は思った以上に変わっているものです。所属部署が再編されていたり、慣れていた上司が異動していたり、業務内容が想定と違っていたりすると、復帰後のスタートラインから疲弊することになります。
「戻ったら居場所がない」「フォローしてくれる人がいない」と感じる状態は、育児との両立を一段と難しくします。組織側に悪意はなくても、結果として復帰のハードルが上がるケースは多く、その状況を受け入れて踏ん張るか、辞めて環境を変えるかの選択を迫られる場面が出てきます。
理由5|育休中に「働き方そのもの」を見直したくなった
育休は子どもと向き合う時間であると同時に、自分の働き方を立ち止まって考える時間にもなります。これまで当たり前だった通勤・残業・出張・付き合いを「もう続けたくない」と感じる気持ちが、育休後半に強くなる人は多いものです。
価値観の変化は否定できるものではなく、復帰してから気づくよりも、育休中に気づいた方が次の一歩を踏み出しやすい面もあります。働き方を変えるために退職するという選択は、消極的な逃げではなく前向きな選び直しのこともあるはずです。
育休後の退職で直面する、5つの現実
退職を考え始めても、実際に動こうとすると複数の不安が並走するものです。罪悪感・返金リスク・会社への引け目・保育園の問題・手続きの煩雑さ――この5つの現実を順に整理します。
現実1|「給付金もらって辞めるのは罪悪感」という呪い
育休後の退職を口にできない最大の理由は、お金や制度の問題ではなく「給付金をもらっておいて辞めるのは申し訳ない」という気持ちです。会社にも社会にも顔向けできない、自分は裏切り者だ、という感覚が言葉にならないまま心に残り続けるものです。
この罪悪感には根拠の薄い面があります。厚生労働省の令和5年度雇用均等基本調査によると、育休を終えた女性の約7%が退職を選択しており、決して例外的な選択ではありません。育児・介護休業法は「復帰を前提にしつつ、復帰できないケースも想定した制度設計」になっており、辞めること自体を制度が責めるようには作られていないと言えるでしょう。
- 育休後に退職を選ぶ女性は約7%(厚生労働省 令和5年度雇用均等基本調査)
- 育児・介護休業法は復帰前提の制度だが、復帰できない事情も想定されている
- 給付金は「復帰を約束した契約」ではなく、復帰意思を持って取得した時点で要件を満たす
- 「申し訳なさ」は会社・社会への配慮として自然だが、自分を責める根拠にはならない
現実2|返金されるかわからない不安は「いつ決めたか」で整理できる
「給付金を返さないといけないのではないか」という不安は、育休後退職を考える人の最大の関門です。実際の返金ルールは、退職の意思を「いつ持ったか」で4つのケースに分かれます。育休開始時点で復帰する意思があったかどうかが判定基準になっており、後から状況が変わって退職を選んだ場合は、受給済みの給付金を返す必要は基本的にありません。
ただし、育休前から退職を決めていたのに育休を取得したケースは給付要件不該当となり、不正受給として最大3倍の返納を求められる可能性があります。「いつから退職を考え始めたか」を自分の中で整理しておくことが、返金リスクを判断する第一歩です。

※ 個別の判定はハローワークに確認してください。「復帰意思」の証明方法は法令に明確規定がないため、グレーケースは事前相談が安全です。給付金の振込時期と退職タイミングをセットで考えたい方は 育児休業給付金の初回が遅すぎる|4〜5ヶ月待つ間の家計対策と、復職・転職を考える判断軸 も参考にしてください。
現実3|「迷惑かけたくない」過剰配慮の罠
罪悪感が強い人ほど、退職を申し出るときに「完璧な引継ぎをしなきゃ」「お礼参りをしなきゃ」「有給は返上しなきゃ」と自分に多くを課そうとしがちです。気持ちはわかるのですが、過剰配慮が自分の選択を後ろ倒しにしてしまうこともあるものです。
「迷惑をかけない退職」という言葉に縛られすぎると、いつまでも辞められなくなります。やらなくていいことと、最低限やるべきことを切り分けて、自分を守る線を引くことが大切です。
| やらなくていいこと(過剰配慮) | 最低限やるべきこと(自分を守る) |
|---|---|
| 完璧な引継ぎ書の作成(前任者が残した範囲で十分) | 退職意思の明確化と書面化(退職届の提出) |
| 有給休暇の返上(権利として消化してよい) | 法定書類の確認(離職票・源泉徴収票・健康保険資格喪失証明書) |
| 個別お礼参り(メールでの挨拶で代替可) | 離職票の請求(会社には発行義務あり) |
| 復帰のフリ(無理して復帰する必要はない) | 健康保険・年金・税金の切替準備 |
現実4|保育園退園リスクと退園猶予のタイミング
育休中・退職後の保育園在籍は、自治体ごとにルールが異なります。一般的には退職後1〜3ヶ月の求職猶予期間が設けられており、その期間内に再就職できないと退園になることが多いものです。世田谷区など一部自治体では3ヶ月の求職猶予が標準ですが、入園1年未満かつ転職から1年未満の場合は猶予なしで退園扱いになる地域もあります。
退園が決まると次の保活が始まり、また入園選考の時期を待たなければなりません。「やっと入れたのに、また一からやり直しなのか」と気持ちが沈むのは当然のことで、退職を決めるタイミングは保育園のルールと連動しているので、早めにお住まいの自治体の保育課に確認しておくことが、後悔を減らす一手になります。
現実5|失業給付・健保切替などの手続き連鎖
退職後は手続きが連鎖的に発生します。離職票の請求・健康保険の切替(任意継続/国保/配偶者扶養)・年金の切替・住民税の納付方法変更・失業給付の申請、さらに育児理由なら受給期間の延長申請も加わります。これだけ重なると気持ちが追いつかなくなるのは自然なことで、一つずつは難しくなくても、期限のあるものが多く、放置すると損をする手続きもあるものです。
特に健康保険資格喪失から5日以内が配偶者扶養への切替期限、退職後20日以内が任意継続の申請期限など、初動の数日が勝負になります。退職前から手続きフローを書き出しておくと、退職後の混乱を最小化できるはずです。なお2025年4月の制度改正により、退職日が属する支給単位期間まで育児休業給付金が支給されるようになっており、退職タイミングが多少前後しても受給済み分が削られにくい設計に変わっています。
育休後の退職、3つの選択
退職を決めた人にも、進め方には選択肢があります。給付金や保育園の事情に合わせて、自分に合うルートを選ぶための3パターンを整理します。
選択1|円満退職|給付金満額受給後・復帰意思を伝えてから辞退
最も摩擦が少ないルートは、育休給付金を満額受給したうえで、復帰直前に「やはり退職したい」と申し出るパターンです。会社側からすれば想定外でも、給付金の返金義務は発生せず、社会保険料の免除も最大限活用できる形になります。
伝え方は、できるだけ早めに直属の上司に相談するのが基本です。理由は「子どもの状況」「家庭事情」など、相手が反論しにくい個人的事情に絞るのが揉めにくく、転職活動を並行しているなら、登録だけ先に済ませて退職時期と転職先決定のタイミングを揃える進め方が現実的です。
退職代行を使うほどのこじれがなければ、リクルートエージェントやdoda、ママワークスなど育児両立を前提にした求人を扱うサービスから情報収集を始めると、次の一歩が見えやすくなります。家族から退職を反対されそうな場合は 親に退職を反対されたとき|本音と現実、3つの選択 も併せて参考にしてください。
選択2|短期復帰後退職|数ヶ月だけ復帰してから辞める
「いったん復帰してから判断したい」「ボーナスを受け取ってから辞めたい」「保育園を継続したい」という事情がある場合は、数ヶ月だけ復帰してから退職するパターンが有効です。給付金返金リスクは完全になくなり、復帰実績があるので失業給付の判定もスムーズになります。
ただし復帰直後の退職は、職場との関係が一時的にギクシャクするリスクもあります。引継ぎや業務分担で迷惑をかけてしまった、と感じる場面が増えるかもしれません。退職を切り出すタイミングが難しい場合や、上司との関係が険悪になっている場合は、退職代行サービス(モームリ・退職代行Jobs・退職代行ガーディアンなど)の利用も視野に入れて、自分が消耗しすぎない進め方を選ぶことが大切です。
選択3|育休中退職|復帰せずそのまま辞める
「もう復帰する余力がない」「会社と関わりたくない」という状態であれば、復帰せず育休中のまま退職を申し出るルートもあります。受給済みの給付金は基本的に返金不要(現実2の表を参照)なので、給付金の心配で復帰を強行する必要はありません。
退職の伝え方は書面(退職届)と口頭(電話・メール)を組み合わせるのが標準です。直接伝えるのが心理的に難しければ、退職代行を使う選択も十分に現実的で、近年は育休中の退職代行依頼も珍しくありません。退職後はすぐに健保切替・失業給付の延長申請(最長4年・本来1年+延長3年)に動けるよう、必要書類を事前にリスト化しておくと安心です。
復帰せず辞める場合は、次の働き方を時間をかけて選び直せるという面もあります。子育てと両立しやすいリモートワーク中心のスキルを身につけたいならSHElikesやテックアカデミーなどのオンラインスクール、隙間時間で収入を作りたいならクラウドワークスやママワークスなどの在宅ワーク・副業プラットフォームが、復帰一択ではない選択肢を広げてくれるはずです。
育休後の退職に関するよくある質問
- Q育休後すぐに退職するのは法的に問題ない?
- A
法的には問題ありません。民法627条は期間の定めなき雇用について2週間前の予告で退職できると定めており、民法628条はやむを得ない事由があれば直ちに解除できると規定しています。育児・介護休業法にも退職を禁止する条文はなく、育休後の退職を理由に会社が退職金や離職票を減額することも認められていません。
- Q育児休業給付金は返金しなければならない?
- A
「育休開始時点で復帰意思があったか」が判定基準です。開始時点で復帰意思があり、後から事情が変わって退職を決めた場合は、受給済みの給付金は返金不要です。一方、育休前から退職を決めていたケースは給付要件不該当となり、不正受給として最大3倍の返納を求められる可能性があります(現実2の4ケース表を参照)。個別の判定はハローワークに確認するのが確実です。
- Q退職を会社に伝える最適なタイミングは?
- A
復帰予定日の1〜2ヶ月前が一般的な目安です。会社側の引継ぎ準備と、自分の退職後手続き(保育園・健保切替・転職活動)の両方を考えると、早すぎても遅すぎても動きにくくなります。直属の上司に口頭で先に伝え、その後に退職届を提出する流れが揉めにくく、メールで先に通告する形は緊急時を除いて避ける方が無難です。
- Q失業手当はもらえる?延長制度はどう使う?
- A
育休後に退職した場合も、雇用保険の被保険者期間と離職理由の条件を満たせば失業給付を受給できます。育児を理由に受給期間を延長する制度もあり、本来の1年に加えて最長3年延長できるため、合計で最長4年間受給できる枠が確保されています(子が3歳未満が対象)。延長申請は退職後30日経過した日からハローワークで行えます。
- Q保育園は退園になる?退園猶予はある?
- A
自治体によって異なりますが、退職後1〜3ヶ月の求職猶予期間が設けられているのが一般的です。3ヶ月内に再就職できないと退園になることが多く、入園1年未満かつ転職から1年未満の場合は猶予なしで退園扱いになる自治体もあります。退職を決める前に、お住まいの自治体の保育課に必ず確認しておくことをおすすめします。
育休後に退職を考える人へ|罪悪感を整理する3ステップ
育休後の退職を考えている人にとって、最後のハードルは制度や手続きではなく、自分の中の罪悪感であることが多いものです。最後に、その罪悪感を整理して一歩を踏み出すための3ステップをまとめます。
第1ステップは、統計と制度設計を理解することです。育休を終えた女性の約7%が退職を選んでおり、育児・介護休業法は復帰できないケースも想定された制度設計になっています。「自分だけが特別に申し訳ないことをしている」わけではないと事実で確認することが、罪悪感を相対化する出発点になります。
第2ステップは、給付金返金ルールの実態を確認することです。「いつ退職を決めたか」で4ケースに分かれ、育休開始時点で復帰意思があれば受給済みの給付金は返金不要です。漠然とした不安を、自分のケースに当てはめて事実ベースで整理することが、心の重さを軽くしてくれます。
第3ステップは、「迷惑をかけない退職」という呪いを手放すことです。完璧な引継ぎや有給返上は必須ではなく、最低限やるべきことを淡々と進めれば十分です。
次の働き方を考えるなら、復職以外の選択肢として、リクルートエージェントやdodaなど育児両立を前提にした求人を扱う転職エージェント、SHElikesやテックアカデミーなどのオンラインスクール、ママワークスやクラウドワークスなどの在宅ワーク・副業プラットフォームが、復帰一択ではない道を広げてくれます。
給付金入金日や復帰予定日を一つの節目にして、自分のペースで次の一歩を選び直していけば良いはずです。退職を切り出すタイミングや伝え方の参考が必要なら GW明けの退職|よくある5つの理由と伝え方・次の選択 も役に立ちます。
育休後の退職を考える前段階として「もう限界かもしれない」と心身が悲鳴を上げている方は、仕事を辞めたいほど疲れた人へ|「甘え」じゃない3層シグナルと、辞める前の5つの選択肢 で疲れの3層分解と休職を含む5つの選択肢を確認しておくと、辞める判断の前にもう一段の選択肢が見えてきます。
この記事のまとめ
- 育休後に退職を選ぶ女性は約7%(厚生労働省 令和5年度雇用均等基本調査)であり、決して例外的な選択ではない
- 退職理由は保育園の不適応・両立の物理的限界・パートナー事情・復帰先の変化・働き方の見直しの5パターンが典型
- 給付金の返金は「いつ退職を決めたか」の4ケースで判定され、育休開始時点で復帰意思があれば受給済み分は返金不要
- 「迷惑をかけない退職」という呪いを手放し、やらなくていいこと/やるべきことを切り分けるのが自分を守る線になる
- 退職の進め方は円満退職・短期復帰後退職・育休中退職の3パターンで、自分の状況に合うルートを選べる
最初にやること
- 「いつ退職を考え始めたか」を自分の中で整理し、現実2の4ケース表でどれに該当するか確認する
- お住まいの自治体の保育課に、退職後の保育園在籍ルール(退園猶予期間)を確認する
- 就業規則の退職予告期間と、復帰予定日を照らし合わせて、退職を伝えるタイミングを決める
- 退職後の手続き(離職票・健保切替・年金・住民税・失業給付)の期限と必要書類をリスト化する
- 必要に応じて、ハローワーク・退職代行・転職エージェントなど第三者の支援先を確認する










