「うちの会社、退職金がないらしい」と気づいた瞬間、このまま働き続けて大丈夫なのか不安になる人は少なくありません。求人票には小さく「退職金なし」と書かれている。就業規則を見ても退職金の説明がない。長く働いても、最後にまとまったお金が出ないと考えると、今の会社にいる意味まで揺らいでしまいます。
私なら、ここで最初に見るのは「退職金があるかないか」だけではありません。
退職金がないのに、月給も低い。昇給もほとんどない。外で説明できる経験も増えていない。こういう会社なら、かなり黄色信号だと見ます。
逆に、退職金はないけれど月給が高めで、仕事の経験が職務経歴書に書ける形で積み上がっているなら、すぐに「やばい会社」とは決めません。退職金という名前では受け取れなくても、別の形で将来の選択肢が増えている可能性があるからです。
最近は、退職一時金をなくして基本給に振り替えるような制度変更も報じられています。これからは「長く勤めれば最後に報われる」という前提だけでは考えにくくなっていくかもしれません。
ただし、退職金がない会社がすべてやばいわけではありません。見るべきなのは、給与、賞与、昇給、福利厚生、そして外でも通じる経験が積めるかどうかです。
この記事では、退職金がない会社に残っていいのか、転職を考えた方がいいのかを、制度・数字・選択肢に分けて整理します。
退職金がない会社はやばい?結論は「制度なし」だけでは決まらない
退職金がないと聞くと、すぐに「ブラックなのでは」と感じるかもしれません。けれど、退職金制度はすべての会社に必ずあるものではありません。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付制度がある企業の割合は74.9%とされています。制度がある会社の方が多数派ではありますが、退職金がない会社も一定数あります。
大切なのは、退職金がないこと自体よりも、その代わりになる設計があるかどうかです。
たとえば、退職金はないけれど月給や賞与が高めに設計されている会社もあります。企業型DCや別の福利厚生が用意されている会社もあります。転職市場で評価される経験を積める会社なら、退職金以上に将来の選択肢が広がることもあります。
反対に、退職金がないうえに給与も低く、昇給も弱く、経験も積み上がらない会社なら注意が必要です。長く働いても手元に残るものが少なく、外に出る力も育ちにくいからです。
つまり、退職金がない会社を見るときは、こう考えるのが現実的です。
- 退職金がない代わりに、毎月の給与や賞与で補われているか
- 長く働くほど、経験やスキルが増えているか
- 会社の制度や給与設計が説明されているか
- 転職したときに評価される実績が積めているか
「退職金なし=やばい」と決めつけるより、「退職金なしでも納得できる条件があるか」を見た方が、判断を間違えにくくなります。
| 見るところ | まだ残って考えられる | 注意したい |
|---|---|---|
| 給与 | 同業より高め、または昇給がある | 低いまま上がる見込みがない |
| 経験 | 社外でも説明できる実績が増える | 何年いても同じ作業だけ |
| 制度 | 就業規則や給与設計の説明がある | 聞いても曖昧にされる |
| 健康 | 忙しくても回復できる | 睡眠や体調に出ている |
右側が多いなら、「退職金がないから不安」ではなく、「この会社に長く残る理由が弱い」と見た方が近いです。
退職金なしでも残っていい会社・辞めたほうがいい会社の違い
退職金なしでも残っていい会社には、いくつか共通点があります。
まず、月給や賞与に退職金相当の考え方が反映されている会社です。退職時にまとめて払うのではなく、在職中の給与に乗せる設計なら、働いている間に受け取れるメリットがあります。
次に、経験価値が積み上がる会社です。営業、事務、接客、企画、管理、IT、制作など職種は何でもかまいません。大事なのは、社外でも説明できる実績が増えているかです。
たとえば、次のような経験は転職市場でも説明しやすくなります。
- 売上や件数など、数字で言える成果がある
- 業務改善やマニュアル化をした
- 後輩育成やチーム運営をした
- 顧客対応やトラブル対応の経験がある
- 新しいツールや仕組みを導入した
退職金がなくても、こうした経験が増えているなら、会社に残る意味はあります。将来の転職や副業まで含めて、外でも使える力が育っているからです。
一方で、辞めたほうがいい会社には危険サインがあります。
- 退職金がないのに、給与も賞与も低い
- 昇給の見通しがほとんどない
- 何年働いても任される仕事が変わらない
- 就業規則や給与制度の説明が曖昧
- 心身の限界が近い
この場合、退職金がないことだけが問題ではありません。給与も伸びない、経験も増えない、制度も不透明という状態が重なっていることが問題です。
お金の不安があると、つい「退職金がないから不安」と一つの問題に見えます。けれど実際には、給与、成長、健康、制度説明の複合問題であることが多いです。
もしお金以前に「もう疲れて限界かもしれない」と感じているなら、退職金の比較より先に心身の状態を見た方がいい場合もあります。近い悩みは仕事を辞めたいほど疲れた人へでも整理しています。
ここは、かなり大事です。
退職金がない会社でも、毎月の給与で報われているならまだ考える余地があります。退職金がない会社でも、仕事の経験が外で通じるなら残る意味があります。
でも、退職金がなく、給与も低く、外で語れる経験も増えないなら、長くいるほど「辞めるのが怖いのに、残っても強くならない」状態になりやすくなります。
辞める前に見るべき3つの数字
退職金がない会社に残るか迷ったら、まず3つの数字を見ます。
1つ目|今の会社で得られる年収
退職金がない代わりに月給が高いのか、賞与が厚いのか、手当があるのかを確認します。退職金だけを見ると不安でも、年収全体では悪くない場合があります。
反対に、退職金がないうえに月給も低く、賞与も少ないなら、長く働くほど不利になりやすいです。
2つ目|転職した場合の年収差
ここで大事なのは、初年度の年収だけで決めないことです。転職直後は年収が少し下がっても、3年後や5年後に伸びる職場もあります。逆に、初年度だけ少し高くても、昇給が弱ければ長期的には苦しくなります。
求人票を見るときは、次のように比べると判断しやすくなります。
- 今の年収
- 転職先候補の年収
- 賞与の有無
- 昇給の見込み
- 退職金や企業型DCなどの制度
- 身につく経験
3つ目|自分の市場価値が増えているか
少し厳しい言い方をすると、退職金がない会社で一番怖いのは「お金が出ないこと」だけではありません。長く働いたのに、社外で説明できる経験が増えていないことです。
会社に残る安心と、外でも働ける安心は別物です。退職金がない会社で働くなら、外でも通じる経験を増やしておきたいところです。
たとえば、同じ「退職金なし」でも、次の2人では意味が違います。
| 状況 | 見え方 |
|---|---|
| Aさん:退職金なし。ただし月給は同業より高く、業務改善や後輩育成の経験が増えている | すぐ辞めるより、実績を整理しながら転職相場を見る |
| Bさん:退職金なし。月給も低く、昇給も弱く、毎年同じ作業だけ | 退職前提ではなくても、早めに外の選択肢を見た方がいい |
退職金の有無だけでは、この違いが見えません。だからこそ、数字と経験を並べて見る必要があります。
残る・転職する・備えるの判断基準
退職金がない会社でも、すぐに辞めなくていい人はいます。
たとえば、今の会社で給与や賞与がきちんと出ている人。昇給の見込みがある人。転職市場で評価される経験が積めている人。今すぐ辞めるより、半年から1年ほど準備してから動いた方が条件が良くなりそうな人です。
この場合は、焦って退職するよりも、まずは現職で実績を作りながら、求人票を見て相場を確認する方が現実的です。
一方で、転職準備を始めた方がいい人もいます。
退職金もなく、給与上乗せもなく、昇給も弱い。何年働いてもスキルが増えている感じがしない。会社への不満が、睡眠や体調に出ている。この状態なら、今すぐ辞めるかどうかは別として、外の選択肢を見始めた方がいいです。
ここでいう「動く」は、いきなり退職届を出すことではありません。
- 求人票を見て、同じ職種の年収を知る
- 職務経歴書に書ける実績を整理する
- 転職エージェントやキャリア相談で、自分の条件を確認する
- 必要ならスキル習得の方向を決める
このくらいからで十分です。
また、退職金に頼りきらない備え方も考えておきたいところです。ただし、「副業すれば安心」という話ではありません。
副業や個人案件を考えるなら、就業規則、健康面、秘密保持、競業避止などの確認が必要です。厚生労働省の副業・兼業と労働条件でも、労働時間や健康管理、秘密保持などの論点が示されています。
現実的には、まず次の3つを小さく始めるのが安全です。
- 今の仕事で身につけたスキルを、社外でも通じる言葉に整理する
- 転職市場で評価される経験に寄せて仕事を選ぶ
- 就業規則を確認したうえで、小さく個人の収入源を試す
たとえば、私は「今の仕事をそのまま副業にする」よりも、「今の仕事でやっている整理・説明・改善を、社外でも伝わる形にする」方が先だと思っています。
文章を書くのが得意ならライティングやマニュアル作成。資料作成が得意ならCanvaやPowerPointの資料整備。事務や管理が得意ならExcel整理や業務フロー作成。接客経験があるなら顧客対応マニュアルやFAQ作成。
大きく稼ぐ話ではなく、「会社以外でも自分の経験が使える」と確認することが大切です。退職金の代わりを一発で作るのではなく、選択肢を増やす感覚です。
今月やること|不安を数字と行動に変える
退職金がない不安を感じたら、今月やることは3つで十分です。
1つ目|就業規則と退職金規程を確認する
見るのは、退職金制度の有無、対象者、勤続年数、自己都合退職時の扱い、支払時期です。退職金という名前ではなく、企業型DCや中退共など別の制度になっている場合もあります。
2つ目|求人票で年収と制度を比べる
いきなり応募しなくてかまいません。まずは、同じ職種、近い業界、同じ地域で、年収や福利厚生がどれくらい違うのかを見るだけで十分です。
「今の会社しかない」と思っている状態と、「外にはこういう条件もある」と知っている状態では、不安の質が変わります。
すでに転職先が決まっていて、今の会社へ退職を伝えるのが怖い場合は、転職先が決まってから退職は裏切り?も参考になります。
3つ目|社外で説明できる実績を1つ書き出す
たとえば、次のような形です。
- 月に何件の対応をしている
- どの業務を効率化した
- どんな資料を作っている
- どんなトラブルを解決した
- どんな人と調整している
退職金がない会社で一番避けたいのは、何年も働いたのに、自分の経験を言葉にできないことです。職務経歴書を書く前でも、仕事を言語化しておく価値はあります。
退職金がない会社に関するよくある質問
- Q退職金がない会社は違法ですか?
- A
退職金がないこと自体が、ただちに違法とはいえません。退職金制度は会社ごとの制度です。ある場合は、就業規則や退職金規程で対象者、計算方法、支払時期などを確認します。
ただし、会社が退職金制度を設けているのに、規程と違う扱いをしている場合は別です。不安が強い場合は、就業規則を確認したうえで、労働基準監督署や専門家に相談してください。就業規則で確認すべき事項については、厚生労働省の就業規則に関するQ&Aも参考になります。
- Q退職金なしの会社は中小企業では普通ですか?
- A
退職金制度がある会社の方が多数派ですが、退職金がない会社もあります。中小企業かどうかだけで決めるより、給与、賞与、昇給、福利厚生、経験価値を合わせて見る方が現実的です。
退職金がなくても月給が高い会社と、退職金もなく給与も低い会社では、意味がまったく違います。
- Q退職金なしの会社へ転職するのは損ですか?
- A
必ず損とは限りません。年収が上がる、経験価値が増える、働き方が改善する、将来の選択肢が広がるなら、退職金なしでも転職する意味はあります。
ただし、年収も下がり、退職金もなく、経験も増えないなら慎重に見た方がいいです。求人票では月給だけでなく、賞与、昇給、福利厚生、仕事内容まで確認しましょう。
- Q退職金がないことを転職理由にしてもいいですか?
- A
転職理由として話すこと自体はできます。ただし、面接では「退職金がないから不満です」だけで終わらせない方が無難です。
たとえば、「長期的なキャリア形成や給与設計を考えたとき、より経験を積める環境で働きたい」といった形にすると、前向きな理由として伝えやすくなります。
- Q副業で退職金の代わりを作るのはありですか?
- A
考え方としてはありですが、焦って始める必要はありません。副業や個人案件を考えるなら、まず就業規則、健康面、秘密保持、競業避止を確認してください。
最初は、今の仕事で得たスキルを社外でも通じる言葉に整理するところからで十分です。いきなり大きく稼ぐより、「自分の経験が会社の外でも使えるか」を小さく試す方が安全です。
まとめ|退職金の有無より、選べる状態を作る
退職金がない会社だからといって、それだけで「やばい」とは決まりません。
見るべきなのは、退職金の代わりになる給与や賞与があるか。経験が積み上がるか。制度の説明が明確か。外でも働ける力が増えているかです。
退職金がない不安は、ただ我慢しても消えません。まずは就業規則を見る。求人票で相場を知る。自分の実績を1つ書き出す。
残るにしても、転職するにしても、自分で備えるにしても、選べる状態を作っておくことが大切です。












